８日目
まだあたりが薄暗い頃、寝たような寝ていないような、起きたような起きてないような、そんなボケボケ頭のまま寝袋から這い出して、コーヒーを作った。相変わらず強い雨が降り続いている。昨日アジをさばいてる頃には「佐渡サイコー！」なんて思っていたのだが、今は早く脱出したくてしょうがない。いや、もっと正直に言えば気持ちが疲れ果て、家に帰りたくてしょうがなかった。新潟から高速で行けば今日中に帰れる。さっさと島を一周して脱出しようと決め、テントをたたみ出発だ。
早朝の町には人影もなく、自分一人を残してみんな消えてしまったようにも感じ寂しい。本来美しいだろう海沿いの景色も雨のためにむしろ不気味な印象だ。海沿いの何キロかおきに町があるが、その間信号は全く無い。町中の信号も数えるほどで、佐渡で信号待ちは一度もなかったようにも思う。雨さえ降っていなければ実に気持ちよく走れるだろう。金山跡、尖閣湾、二つ亀とバイクを降りて歩いて見たが、雨さえ降っていなければ素晴らしいだろう。あぁ！雨さえ降っていなければ！
なんのこっちゃ
島をほぼ一周し両津港に着いた。フェリーの時間を見ると、出航まであと２時間近くあるので、券を買ってからトキ保護センターに行くことにする。トキの子が産まれて間もなかったので混んでいるかと思いきや、さほど混んではいなかった。敷地自体は広いのだが展示施設の建物はとても小さく展示物も貧弱だ。生まれたばかりのヒナのビデオがエンドレスで流され、ピーピーという鳴き声が虚しく響く。ヒナはもちろん親鳥も見ることは出来ず、剥製が一体置かれているだけ。入場料は２００円だったが、それでも高いと思うほどだ。これじゃここに来た意味が何も感じられないもんねぇ。
ガッカリしつつ港に戻るが、まだ時間がたっぷり余っていたのでみやげ物を見てまわった。酒や海産物などみやげは豊富であれもこれもと買いまくってしまう。ご丁寧にすぐ近くに郵便局の窓口があったので、まんまと策略にハマり、それらをゆうパックにして家に送った。
佐渡よさらば
船はあっさり出航した。「なんだかスゴイ島だったなぁ」と佐渡を見ると、山頂に日の光が当たり緑鮮やかだ。船に乗ったとたんに雨が上がり、日が射してきたのだ。おのれ。腹立たしいじゃないか。佐渡にはすっかりやられたな。
船上は来た時よりも人が多かったが、人目に付きにくい場所のベンチを見つけ熟睡したのであっという間に本州だ。さっさと高速に乗り家に帰ろう。イエ～イ！帰ってきたぜ本州！
一気に東京まで行くつもりが、どうにもカラダが疲れていてくじけそうだ。船で２時間弱寝たものの、眠気も覚え我ながら危ない。やっぱり無茶かなぁ、と諦めて、宿が多そうな湯沢で降りた。降りて間もなく「飛び込み歓迎いたします」の看板を発見、値段を訊くとメシが付いて１万３千円だそうだ。幸いまだお金に余裕があったので、たまには贅沢してみようとここに決めた。
部屋に荷物を置き、早速大浴場へ。やっぱり大きいお風呂は気持ちがいい。伸ばした足の先から疲れが抜けていくようだ。サッパリしたあと豪華な晩飯。仲居さんが部屋まで運んでくれるのだが、オレはそんな御身分ではない。申し訳ない気持ちでかえって恐縮してしまう。「佐渡島は怖かったッスよ」なんて話を楽しそうに聞いてくれ嬉しい。
それは大変でしたねぇ
ご馳走と一緒にビールも一本頼んだのだが当然それだけで済むはずがない。夜の町にカランコロン歩いて買い出しに出かけ部屋で飲んだが、全部飲み終わらないうちに眠くなってしまい、早い時間に寝てしまった。
本日の走行距離：約３１６㎞
９日目
朝飯は宴会場だそうで降りていくと、静かな館内なのにこんなに居たんか！というほど多くの人たちが居た。みんなお年寄りだ。ひとりで泊まっているのはオレだけのようで、沢山の団体さんから少し離れてポツンとお膳が置かれていた。なんだか淋しい朝飯だ。
さ、寂しい・・・
このまま高速に乗ってしまうのはあまりにもったいないので、一般道を南下。スキーで何度か訪れたことのある苗場、かぐら・みつまた、猿ヶ京あたりも冬とは全く様子が違う。緑濃い山々がとても美しいじゃないか。実に久しぶりに感じる太陽の暖かさが心地良い。
渋川から高速に乗り一気に東京・練馬。環パチを抜け第三京浜。横浜が近付くにつれ心がウキウキしてくる。恐ろしい佐渡での体験のせいか、今回の旅は家が恋しくてしょうがなかった。早く妻に会いたい。
辿り着いた家は、たった１０日経っただけなのに緑が増えているように感じた。バイクの音を聞きつけてわが家の迷犬クロがクンクン鳴いている。どうやらオレのことを忘れてはいなかったようだ。子供達は背が高くなっており、妻も新鮮に見える。会いたかったよ、君たち。妻よ、怖かったんだぞ。カラダはぐったり疲れているが、妻よ、今夜のオレは疲れ知らずだぞ。
本日の走行距離：約２４８㎞
この旅で思ったこと
・太平洋も美しい
・オトナは馴染みのママさんが居る店を持っている
・通信を通じて知り合った方々のお陰で、旅がより充実したものとなった
・モバイルが欲しいなぁ
・少しは天気予報を気にした方がいいかも
・雷をこれほど怖く思ったことはない
・知らないうちに家族に頼ってる部分があるなぁ、精神的なよりどころとして
・妻の理解がありがたい！
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