２日目
朝起きるとオレは板の間に寝ていた。昨晩「寝場所なんかどこでもいいんだ気にすんな」などと言いつつ寝たようなことをボンヤリ思い出した。時間は充分とは言えないが熟睡したのだろう、頭はスッキリしている。「おはスタ」を観ながら太っちゃんが入れてくれたコーヒーを飲み、さあ出発だ。今度はウチにも来いよ、太っちゃん。
世話になったな太っちゃん
４号線は相変わらずのトラック街道だが流れは順調で、あっという間に塩原に着いた。だが後輪のブレーキの効きが悪い、というよりもほとんど全く効いてない状態に悪化してしまったように感じる。塩原の「道の駅」で後輪を見てみると、なんとタイヤが左右に２・３㎝ブレるじゃないか！これは「遊び」というレベルではないぞ。ブレーキの故障ではなかったのだと一人納得。ちょっとマズイぞ、なんて思いつつも、ここまで来れたんだもん、まぁ騙し騙し行くか、と楽観的なオレ。
喜多方に行ってラーメンを食おうと走り出したが、後輪の不安であまり飛ばせない。会津若松に着くと「喜多方ラーメン」の看板があり、まぁここでいいかと妥協して食べた。なかなか旨かったのだが、やっぱり後輪が不安だ。何をするにせよこんな状態では気分良く走れっこない。今日はなんとか新潟に辿り着き、バイク屋で見てもらおうと西に向かって走りだした。徐々にではあるが後輪のブレが大きくなってきたようで、ハンドルが小刻みに揺れだした。ますますスピードが落ちる。
これはマズイかも・・
会津若松から２０㎞ほど走り峠道にさしかかったあたりで、突然後輪がガキンと音を立て、瞬間的にケツが５㎝ほど横へずれた。そのショックは今まで感じたことのないもので、ただ事ではないことがハッキリ分かった。タイヤとどこかが擦れてギュワンギュワンとデカイ音を立てる。慌ててバイクを脇に停め、後輪を見てみるとシャフト部分からゴムのような物がはみ出し、タイヤは上下にも左右にもガタガタと揺れる状態だ。明らかにベアリングまでイッちゃっており、この場で直せるようなものではない。これはさすがにマズイかも。さあどうしようか。会津若松に戻るか、新潟まで行くか。そもそも行けるのか？ソロソロと試しに走ってみる。ギュワンギュワンうるさいが、時速２０㎞ぐらいなら何とか動けるようだ。よし今だ！しらいしの「危機管理コンピュータ」作動！
会津若松と新潟を比べてみると・・
・会津若松の方が近い。
・新潟の方がバイク屋は豊富だろう。
・修理に何日かかかるとしても新潟には宿が豊富にありそうだ。
・最悪家に帰る場合、新潟なら新幹線ですぐだよな。
よし、新潟に行こう。ここから約８０㎞、とりあえず１㎞走ろう。そして休もう。それを８０回繰り返せば辿り着けるぞ。
頑張ろう。頑張ろう。頑張れ、オレ！頑張れ、オレ！
直線ならば時速４０㎞くらいでも案外大丈夫だ。ただカーブは恐ろしいので極端にスピードを落とし、バイクを倒さないように走る。重そうなトラックにもバンバン抜かれるがどうしようもない。バイクがこんな状態でなかったら楽しいだろうなぁ、と思わせる道だ。ちくしょう！緑深い山の中、ギュワンギュワンとタイヤの音が響き、ハンドルが大きく振動し続ける。少し走っただけで腕がクタクタだ。だが頑張れ、オレ！負けるな！
孤軍奮闘、ようやく新潟に入り、少しずつ家の数が増え、車の往来も激しくなってきた。道路脇を走るオレのバイクの立てる大きな音に通行人が振り返る。「みんな見てくれ～オレは頑張っているぞ～！」と心の中で叫ぶオレ。
おぉ！ようやく一軒のバイク屋さんを発見。早速見てもらうが、やはりベアリングまでイッており、とてもすぐには直せないようだ。部品が入るまでに５日かかるという。市内まで行けば中古を扱ったバイク屋さんもあるので、そこに行けばすぐ直せるかもしれないよ、というアドバイスに従い、市内をめざしてもうひと頑張りすることにした。またギュワンギュワン走り、教えてもらったバイク屋さんにようやく辿り着いた。だがあいにく部品はなく、やはり部品が届くまで５日かかるという。
さらばジェベル
それだけ待ってその上に修理代となるとデカそうだ。かといって一度帰ってまた取りに来る？あるいは送ってもらうか。どちらにしても出費はデカそうだ。ジェベルは走行距離が３万５千㎞を越えており方々にガタが来ていて、来年の春にでも買い換えようかなとは思っていた。この際ここで買ってしまい旅を続けようか !? がしかし、県外に住んでいる人相手に売ると書類をそろえるのに時間がかかり、結局１週間ほどかかるのだという。う～ん、結局ジェベルはここで廃車にし、旅もここで終えるのがベストなようだ。なんかものすごく残念だ。くやしい。ヒジョ～にくやしいぞ。
バイク屋さんのお兄さんも方々にツーリングに出掛けるそうで、オレの苦悩をとてもよく理解してくれ、色々と慰めの言葉をくれるのだ。「これだけの距離乗ってもらったらコイツもきっと本望ですよ」なんて言いながらジェベルを愛しげに撫でるお兄さんを見て、急にグッと来てしまった。毎朝コイツに乗って出勤し、九州からこっちを走ったり富士山を走ったりもした。オフロードの楽しさを教えてくれたのもコイツだし、キャンプにも荷物満載で何度も出掛けた。今までこのジェベルほど愛着を持ったバイクは無かったかもしれない。そんなコイツともこれでお別れだ。お兄さんにシャッターを押してくれと頼み、最後の写真を撮ってもらった。
ジェベルよ、ありがとう
お兄さんが車で新潟駅まで送ってくれた。肩に食い込む荷物をぶら下げ新幹線に乗車。たった２日のツーリングだったが、ものすごい距離を走ったように感じる。挫折感と多少の達成感が入り交じった気持ちでボンヤリ車窓から外を眺めていると、腹が立つほど早く東京に着いてしまった。オレの苦労をあざ笑うかのような新幹線め、今に見ていろ。
横浜から電車に乗るときにウチに電話をかけ、駅まで車で迎えに来てもらった。じっちゃんはゲタゲタ笑うのだが、オレは悔しくは思わない。何だかオレもウチに帰ってきて幸せな気分だ。ビールを片手にオレも笑いながら苦労話をする。しみじみ思うが、ウチがあってこその一人旅だよねぇ。
本日の走行距離：約２６０㎞
この旅で思ったこと
・原因の分からないバイクの不調はトコトンつきとめよう
・太っちゃん、貴族やなぁ
・こんなに苦労したことって近年無いなぁ
・ま、命がありゃいいか
・この旅で撮った写真がたったの３枚！
・新幹線には呪いをかけたので、そのうち高架やトンネルでコンクリートが落ちるぞ
・妻の理解がありがたい！
|
